まだまだ暑い日が続いています。
前回は、熱中症と暑さ指数について解説し、また屋外での作業が避けられないお仕事など、仕事中に熱中症になった場合の安全配慮義務と労災認定についてお話ししました。
実際に熱中症に関するニュースなど調べてみたところ、職場以外でも、学校へ通う子どもたちが熱中症になって問題となることも多いようです。
今回は、学校での熱中症対策についてお話します。
学校現場では、体育の授業や部活動、遠足などの課外活動など、暑い中でも外で活動する機会が多いです。
北海道の学校は全国と比べてエアコン設置率が非常に低いのですが、年々暑さが厳しくなっているため、急きょ大規模な工事が不要な移動式エアコンを導入するなどして対策が進んでいます。
また、2024年は夏休み期間を延長する学校も多かったようです。
参考:文部科学省 平成30年全国公立小中学校のエアコン設置率
環境省と文部科学省が公表している資料によると、学校の管理下における熱中症は、小学校・中学校・高等学校等を合わせると毎年5,000件程度発生しているとのことです。
2018年度には7,000件を超え、高等学校等、中学校、小学校の順番に多くなっています。
特に、部活動が始まる中学生になると急激に増え、高校1年生が最も多く熱中症を発症しているとのデータが出ています。
参考:文部科学省 学校における熱中症対策ガイドライン作成の手引き
学校での熱中症に関する事件としては、今年の2月にも、大阪府で小学校の遠足中に当時1年生だった8歳の女の子が、お茶の購入を要望したのに教諭が認めなかったことにより、熱中症で救急搬送されたなどとして、女の子と両親が市を相手に、慰謝料や損害賠償を求める訴訟がありました。
産経新聞 遠足で「お茶買いたい」認めず、小1女児熱中症
ニュースによると、往復で約2時間歩く距離だったそうで、女の子の母親が前日に体力面の不安から欠席したいと伝えていたそうです。
しかし、担任教諭から促され、水筒のお茶が足りない場合は購入を認め、異常を訴えた場合は母親に連絡するよう要望したということです。
ところが当日、女の子が先生に「お茶を買わせてください」と伝えても校長の判断で認めず、めまいを覚えて「ママ呼んでください」と伝えても聞き入れてもらえなかったとのことです。
下校時間に迎えに行った母親が女の子の高熱に気づき、救急搬送されて熱中症と診断され、学校側に「安全配慮義務違反があった」と訴えに至りました。
女の子は治療に長くかかり、しばらくは学校を早退することもあったそうです。
大事に至らなくて良かったですが、命に関わることですから、親御さんはとても心配だったと思います。
今回の事件では、女の子は小学1年生ということで、小さなお子さんほど汗をかく能力が大人に比べて未発達で気温の影響を受けやすく、また、大人よりも地面に近いことから反射熱などの影響で熱中症になりやすいといわれています。
そのため、周りの大人が気にかけてあげる必要があります。
学校現場においても熱中症事故を防ぐために「安全配慮義務」というものがあります。
これは、子どもたちが危険から守られ、安全に学校生活を送れるようにするための法律上の義務です。
たとえば、暑い環境では、その状況に合わせた活動を設定したり、子どもたちの体調に気を配って、しっかりと水分補給や休憩を取らせたりします。
もし体調が悪くなったら、すぐに適切な対応をすることも求められているのです。
参考:学校における 熱中症対策ガイドライン作成の手引き|文部科学省
学校における熱中症事故について、学校側の安全配慮義務違反の有無については、2つの基準があります。
ひとつは、予見可能性です。
これは、熱中症事故が発生する危険を、学校側があらかじめ予見できたか、という基準です。
そしてもうひとつが、結果回避可能性です。
たとえば、学校側が熱中症予防の対策等を講じることができたことなのか、また、その対策等を講じていれば熱中症の発生を回避できたかどうか、という点から、違反の有無を判断します。
もし、学校側に対して熱中症事故の損害賠償を請求する際は、これらの両方を立証する必要があります。
まず,学校の教師は、学校における教育活動により生ずるおそれのある危険から生徒を保護すべき義務を負つており、危険を伴う技術を指導する場合には、事故の発生を防止するために十分な措置を講じるべき注意義務があることが最高裁判所で判示されています。
最高裁判所昭和62年2月6日判例
そのうえで過去には、部活動の熱中症事故で安全配慮義務違反となったケースもありました。
平成19年5月に、兵庫県の高校に通っていた女性がテニス部の練習中に熱中症で倒れ、重い障害が残ったケースがあります。
1審の神戸地裁が「心停止の原因が熱中症と認めるだけの証拠はない」などとして請求を棄却したのですが、2審の大阪高裁では、練習の冒頭しか立ち会わなかった顧問教諭を「水分補給に関する指導もなかった」などとして過失を認め、県に2億3千万円の賠償を命じたそうです。
参考:産経新聞 部活中の熱中症兵庫県への賠償命令が確定
他にも、大阪府の市立中学1年だった女性が平成22年8月、バドミントン部の部活中に熱中症となり、脳梗塞を発症して左半身にまひが残ったケースもあります。
1審の大阪地裁が学校側の過失を認定し、判決では温度計の設置など熱中症予防の環境を整えていなかった学校側の過失を指摘したそうです。
参考:日経新聞 部活中の熱中症で後遺症、市に411万円賠償命令
こういった過去のケースでは学校側の過失の有無が争点となっています。
最初にお話しした小学生の遠足でのケースを巡っても、学校側に対して「安全配慮義務違反があった」と主張しています。
東京のとある中学校では、授業中やテスト中は水筒の水やお茶を「原則飲まないことをマナーとする」という校則を定めたことで話題になりました。
さすがに保護者から熱中症の危険性を指摘され、「授業で教師が話している間は飲まない」などと指導を変えたようですが、生徒は「どのタイミングで飲んでいいのかわからない」「やっぱり飲めない」と困惑しているとのことです。
熱中症対策が進む中で、命を守る行動よりもマナーが優先されているように感じます。
水を飲む量やタイミングは、個人の体調や状況によっても全然違うと思うので、一律の対応は難しいのかもしれません。
これはもう学校側がいかに上手く、状況に合わせて臨機応変に対応していくのかが求められているのかもしれません。
環境省と文部科学省では、共同で「学校における熱中症対策ガイドライン作成の手引き」を公表しています。
熱中症に関する基礎知識や、学校側が講ずべき熱中症の予防措置や対応のポイントなどが示されています。
基本的に、学校側は児童・生徒に対する安全配慮義務を果たす観点から、この手引きに従った予防措置や対応を行うことが求められています。
参考:学校における 熱中症対策ガイドライン作成の手引き|文部科学省
もうすぐ夏は終わりますが、まだまだ暑い日は続きます。
子どもの熱中症対策には、先生や周りの大人がしっかりと目を配り、気遣ってあげるようにしてください。
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