
文章作成や画像生成など、仕事でもプライベートでも日常的にAIを使う方が増えました。
便利な一方で、「どこまで情報を入れていいのか」「何か法律に触れたりしないか」と不安に感じている方も多いのではないでしょうか。
今回は、2025年に成立した「AI法」と、AI利用にともなう著作権・個人情報保護のリスクについて解説します。

AIをめぐるルール整備は、社会の変化のスピードになかなか追いついていません。
このブログでも2023年に画像生成AIと著作権について取り上げたことがありましたが、当時の日本はまだ「これから議論が必要」という段階でした。
それから数年、状況は大きく動き、日本でも初めてAIに関する法律が誕生しました。
正式名称は「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」で、通称「AI法」または「AI新法」と呼ばれています。2025年5月に国会で成立し、6月4日に公布、9月1日に全面施行されました。
この法律の特徴は、AIを縛る「規制法」ではなく、研究開発や活用を後押しする「推進法」だという点です。
内閣総理大臣を本部長とする「AI戦略本部」を設置し、国の指針となる「AI基本計画」を定める枠組みになっています。
2025年12月には「信頼できるAIによる日本再起」を掲げた基本計画が閣議決定され、AIを開発・活用しやすい国を目指す方向性が示されました。
このAI法には罰則規定は設けられていませんが、リスクを放置しているわけではありません。
不正な目的や不適切な方法でAIが使われ、国民の権利が侵害されるような事案が起きた場合には、国が実態を調査し、事業者への指導や助言、場合によっては事業者名の公表を行うことができます。
規制で縛るのではなく、イノベーションを妨げない範囲で悪質なケースには関与できる、そんなバランスを取った制度になっています。

AI法そのものに罰則がなくても、使い方によってはすでにある法律に抵触することがあります。
特に注意したいのが著作権法と個人情報保護法の二つです。
著作物の権利を保護するのが「著作権法」ですが、著作権法30条の4では、作品を「味わって楽しむ」目的でない利用であれば、必要な範囲で著作権者の許可なく著作物を使えるとされています。
AIに学習させる段階と、AIで生成したものを使う段階を分けて考えるとわかりやすいでしょう。
| 第30条の4(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用) 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。(中略) ・情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第47条の5第1項第2号において同じ。)の用に供する場合 |
代表例が「情報解析」で、大量のデータから言葉や音、映像などの要素を抽出し、比較・分類する行為です。AIの学習はまさにこれに当たるため、原則として許可なく行うことができます。
ただし例外もあります。特定の作家の作品ばかりを学習させ、作風そっくりの作品を大量に生み出すような場合は、著作権者の利益を不当に害するとして、この原則が適用されなくなる可能性があります。漫画家の画風を学習させて「〇〇風」の画像を出す行為も、かなりグレーゾーンといえるでしょう。
次に気をつけなければならないのは、生成したものを実際に使う段階です。AIが作ったものがたまたま既存の作品に酷似していた場合、それを自分の作品として公開したり商品化したりすると、著作権侵害に問われるおそれがあります。
違法性の有無については、AIが出力したものだからといって特別な判断基準があるわけではなく、これまでどおり「類似性」と「依拠性」の二つで判断されます。
利用者本人が知らなくても、AIの学習データに特定の著作者の作品が含まれていれば、結果的に似たものが出てきてしまう可能性もあります。
「知らずに侵害してしまう」というのが、AIならではの怖さといえます。
だからこそ、AIが生成したものを世に出す前に、既存の作品と似ていないか確認するひと手間が欠かせません。
文化庁も「AIと著作権に関する考え方」やチェックリストを公表しているので、業務で本格的に使う方は一度目を通しておくとよいと思います。
もう一つの落とし穴が個人情報保護法です。
AIに指示を出す文章、いわゆる「プロンプト」に、うっかり個人情報や会社の機密情報を入力してしまうケースが後を絶ちません。顧客名簿をそのまま入力したり、まだ公表していない議事録を要約させたりする場面が典型例です。
AIサービスによっては、入力したデータがそのまま学習に使われる設定になっていることがあります。
その場合、入力した情報が別の利用者への回答に紛れ込み、情報が漏れてしまう可能性があります。
実際に個人情報保護委員会も、本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力し、それが学習など回答以外の目的に使われる場合には、個人情報保護法に違反しうると注意喚起しています。
対策の基本は、個人情報や営業秘密、未公表の機密情報を安易に入力しないことに尽きます。
業務で本格的に利用するのであれば、「入力データを学習には使わない」と規約で明記している法人向けサービスを選ぶことが重要です。
無料の個人向けツールと法人向けツールでは、データの扱いが異なることが多いため、規約を確認する習慣をつけてください。
便利だからとつい何でも入力してしまいがちですが、「これは外に出しても大丈夫な情報かな」と一度立ち止まって考えることが、自分自身を守ることにつながります。

AIへの向き合い方は、国によってかなり違いがあります。日本の「推進」型に対し、その対極にあるのがEUといえるでしょう。
2024年に成立した「EU AI法」(規則(EU)2024/1689)は、世界初の包括的なAI規制法で、はっきりと義務や罰則を課しています。
リスクの大きさに応じてAIを分類する「リスクベースアプローチ」を採用しており、「ソーシャルスコアリング」のように人の権利を脅かすものは使用自体を禁止、人の安全に関わる「ハイリスク」なAIには厳格な義務を課します。
制裁金は数十億円規模、あるいは世界売上高の一定割合にのぼることもあり、2026年8月にはハイリスクAI規制が本格的に始まる予定です。
見逃せないのが「域外適用」というルールで、EU域内で使われるAIであれば、提供企業が日本にあっても規制の対象になり得ます。
EU市場でビジネスをする日本企業にとっても、決して無関係な話ではありません。
一方のアメリカには、連邦レベルでの包括的な規制法はまだありません。
大統領令という形で政府が関与する動きはあるものの、現在のトランプ政権はイノベーションや経済成長を重視し、規制はむしろ緩める方向で動いています。
また、カリフォルニア州やコロラド州など、州ごとに独自のルールを定める動きもあり、国全体としてはつぎはぎの状態です。

EUが規制でしっかり枠にはめる立場、アメリカが自由を重視する立場だとすると、日本はその間で、推進を軸にしつつリスクには指針やガイドラインで対応していく、というバランス型の立場だといえます。
海外で事業をされる方は、進出先の国によってルールがまったく違うということを意識しておく必要があります。
最後に、日常的にAIを使う中で気をつけておきたい点を三つ挙げます。
一つ目は、AIで作ったものをそのまま世に出す前に、既存の作品とよく似ていないか、ひと呼吸おいて確認することです。
著作権の侵害は、知らないうちに起きてしまうことがあるためです。
二つ目は、個人情報や機密情報を安易に入力しないことです。
一度入力した情報は、取り戻せないかもしれないと考えておくと安全です。
そして三つ目は、特に仕事で使う場合には、データの取り扱いについて、利用するサービスの規約を確認することです。
AIは本当に便利な道具であり、これからますます私たちの生活に欠かせないものになっていくと思います。
国も「世界で最もAIを使いやすい国を目指す」と言っているくらいですから、過度に怖がる必要はありません。
ただ、便利な道具だからこそ、使う側が最低限のルールやリスクを知っておくことが、自分自身を守ることにつながります。
AI法ができたばかりで、法律もこれからまだまだ変わっていくと思われます。
私たちも常に最新情報をチェックしながら、上手に付き合っていきましょう。
▼参考
人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI法)
AI法 全面施行 -次なるフェーズへ-|内閣府
ラジオ番組『コトニ弁護士カフェ』
毎週金曜日10時30分から三角山放送局で放送中!
隔週で長友隆典護士&アシスタントの加藤がお送りしています。
身近な法律のお話から国際問題・時事問題,環境や海洋のお話まで,様々なテーマで約15分間トークしています。
皆様からの身近なお悩み,ご相談などのリクエストもお待ちしております。
三角山放送局 reqest@sankakuyama.co.jp または当事務所のお問い合わせフォームでも受け付けております。