日本海沖で外国籍船舶(以下,相手方船舶という)が定置網を破損する事故が発生し,相手方船舶を所有する外国籍会社に対して損害賠償請求をした事件。
この事故によってもたらされた損害は漁具の修理費用だけでなく,修理に要した人件費,休漁による休業損害,そして破壊された漁具から逃げてしまったブリも含めて,数億円を超える損害となった。
当初は示談交渉を求めたが,交渉は難航した。そこで,事故の損害と因果関係を立証することで,相手方船舶の差押え決定(船舶国籍証書等引渡命令)を得た上で,相手方船舶が加入しているPI保険会社から補償上限満額を補償する内容のLOU(保証状:補償を約束する書類)の発行を受けた。その後,なかなか補償が実行されなかった為,事故が起きた管轄裁判所で相手方船舶を所有する外国籍会社に対して損害賠償請求訴訟を提起した。裁判では請求額全額を認める判決を取り,相手方船舶が加入しているPI保険会社へ補償を請求し,保険補償額上限満額に近い額を受け取ることに成功した。
相手が外国の会社である場合,納得のいく金額を回収することは難しい場合が多いです。相手がすぐに特定できたとしても,なかなか真摯に対応してくれないこともあります。相手はこちらが訴訟に持ち込むのが難しいことをわかっているので,足元を見るような金額を提示してくることもあり,仕方なく不利な和解を受け入れてしまうケースがほとんどです。
今回は交渉が難しいとわかった時点ですぐに訴訟に移行しました。LOUの発行を受けていたので,PI保険の補償上限満額に近い金額の支払いを受けることに成功しました。
「事故が起きた年は豊漁で,年末のブリが最も高く売れる時期でした。貴重なブリを失い,仕事道具である大切な網を破壊され,辛く悲しい年末を過ごしたことを今でも覚えています。こちらは100%被害者であるのに,網を壊した犯人もわかっているのに,なぜすぐに賠償してもらえないのか。本当に理不尽で,悲しみと怒りでいっぱいになりました。
あれから4年経って,やっと保険会社がお金を払ってくれました。日本の港に入港する外国の船はPI保険の加入が義務付けられていますが,今回の事故のように,実際に補償してもらうまでは大変な道のりで,外国のPI保険はなかなか役に立たないようにも思いました。今後はPI保険の加入義務だけでなく,事故が起こった時にスムーズに補償を受けられるような制度が必要だと感じます。
長友先生は水産庁出身ということで相談させてもらいました。水産関係・漁業関係にたくさん人脈を持っていて,結果的にたくさんの人たちに助けてもらうことができました。長友先生の行動力と最後まで諦めない姿勢が,この事件を解決してくれたと思います。これからも何かあったら頼りにしたいです。」
海に囲まれている日本では,外国船舶による海事事件は避けられない状況で,近年ではロシア,中国,韓国,東南アジアなどの船舶による事故が増えてきています。また,従前から船舶は船の国籍と実質的なオーナーの国籍とが違うことも多く,対応を一層難しくしています。
今回はこちら側に有利な内容のLOUを発行してもらったため,国内の裁判所の勝訴判決により外国の保険会社から保険金を支払ってもらうことが出来ました。LOUが無い場合,日本で勝訴したとしても,相手方の所在が日本国内の判決を執行できない国では,判決に従った支払いを受けられないことも想定されます。
一つの解決策としては,国際仲裁所により解決を図ることです。国際仲裁は裁判ではありませんが,国際条約(ニューヨーク条約)により,条約加盟国同士で仲裁の決定を裁判所の判決と同じように執行できるようになっております。したがって,例えばロシアや中国のように日本国内の判決が執行できない場合でも,国際仲裁所で解決を図ることにより損害の補填が可能となる場合があると思われます。
当事務所では国際訴訟に加えて国際仲裁も対応しております。海事事件に限らず国際事件の解決にお役立てれば幸いかと思います。
※本事件の解決事例については,依頼者様から掲載許可をいただいております。